認知症患者の事故に対する家族の責任について

興味深い判決が最高裁から出ました。

 

新聞やネットなどのニュースでトップ扱いでしたので、

皆さんもご覧になったと思いますが、認知症患者が徘徊して電車に跳ねられて死亡し、

その後、電車会社から損害賠償請求を受けていた事件です。

 

世界にも稀に見る高齢化社会となった日本では、

老老介護の問題や福祉施設での虐待、介護疲れによる殺人など、寂しい事件が後を絶ちません。

また、判断能力が衰えた高齢者による新しい事件・事故(例えば高速道路の逆走など)も発生しています。

 

今回の事件は、認知症の高齢者を妻などの家族が自宅で介護していたところ、妻がうたた寝していた隙に認知症患者が徘徊して線路に立ち入ってしまい、電車に跳ねられて亡くなってしまいました。

 

電車会社は、その遺族に対して、監督が不十分であったとして、民法上の不法行為に基づく損害賠償を請求しました。

 

自身の行為が法的にどのような責任を発生させるかを認識出来ない方に責任を負わせることは酷な結果に繋がるため、民法712,713条では、未成年者や精神疾患の方の法的な責任を負わせないことになっています。

 

他方で、被害に遭った方の救済が必要なので、監督する義務がある人に落ち度があれば、

その監督義務者に責任を負わせることになっています(民法714条)。

 

電車会社は、その民法714条を使って、徘徊高齢者を介護していた93歳の妻やその他の家族に対して、賠償請求をしました。

 

最高裁は、生活実態や介護者の状況などを総合的に見て落ち度の有無を認定するとして、

今回のケースでは、妻自身が相当の高齢であったことや出来る限りの介護をしていたと認定し、

責任を否定しました。

 

また、同居している配偶者だからと言って、法的な責任を負う監督義務者とまでは直ちには言えないとも判示しました(ただ、監督義務者に準じる立場の場合でも一定の責任を負うとしているので、そこは少し分かりづらい判断かもしれません)。

 

国の推計では、今後、高齢者の5人に1人が認知症患者になるとも報告されており、

高齢化社会が一層進むことで、今回のような事件の増加が見込まれます。

 

社会問題化していく中で、高齢者を抱える個々の家族の責任と費用負担だけで対処することは相応しくなく、何らかの公的な救済制度や保険などが出来れば良いと思っています。