注目の判例・法令情報

 

エータ法律事務所では、不定期ですが、有益な法律情報をご紹介していければと思っております。

 

こちらでは、注目の判例・法令情報、その他のコラム・論稿などを掲載しますので、ご興味のある方は、ご覧ください。掲載情報については、ジャンルごとに順次、各関連ページへ分かりやすく集約していく予定です。

 

 

 

 

◆平成24年3月13日 最高裁第三小法廷判決

 

 

いわゆるライブドア事件の損害賠償請求訴訟について、最高裁判決が出たようです。

この判決については、いずれコラムを書く予定でおります。(最高裁HP

 

 

 

 

◆人のパブリシティ権に関する最高裁平成24年2月2日判決 (2012/2/29)

弁護士 藤田 宏

 

1 週刊誌の記事に写真を無断で掲載されたとして、女性歌手らPが発行元Kに対して損害賠償を請求していた訴訟において、平成24年2月2日に最高裁の判決がありました。これまで、いわゆる物のパブリシティ権に関しては、最高裁平成16年2月13日判決(民集58巻2号311頁)が否定的判断を示していましたが、本件では人のパブリシティ権に関してはじめての判断を示した点で注目されます。本件判決がこの分野において重要な先例となることは間違いないでしょう。そこで今回は、この最高裁判決の概要について、まとめておきたいと思います。

 

2 パブリシティ権の法的性質について


パブリシティ権の法的性質については、人格権の一内容とみるのか(人格権説)、これとは別個独立の財産権とみるのか(財産権説)について従来から議論があったところです。

 

本件判決は、肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があるとしたうえで、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利をパブリシティ権と定義づけ、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものとして、「人格権に由来する権利の一内容を構成する」と位置付けました。

 

物のパブリシティ権に関する平成16年判決とともに、本件判決によって、最高裁がパブリシティ権に関して独自の財産権とみることには否定的であり、人格権に由来する権利の一内容とみることが鮮明になったといえるでしょう。

 

 

3 不法行為の成否 - 受忍限度

 

本件判決は、上記のようにパブリシティ権の権利性を認めたうえで、他方で「肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあ」り、「その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」としています。

 

肖像等の商業的利用によって直ちに権利侵害と認定するのではなく、一定の受忍限度を設定する理由については、金築裁判官の補足意見をみると、(ア)顧客吸引力を有する著名人に対する表現の自由の尊重、(イ)ほとんどの報道、出版、放送等は商業活動として行われているため、肖像等の商業的利用一般をパブリシティ権の侵害とすることは適当ではないこと、(ウ)明確な法令の不存在、(エ)パブリシティ権の侵害による損害は経済的なものにすぎないこと、(オ)氏名、肖像等を使用する行為が名誉毀損やプライバシーの侵害を構成するに至れば別個の救済がなされ得ること、等が考えられているようです。

 

 

4 パブリシティ権侵害の基準

 

そのうえで本件判決は、「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる」と解しました。

 

この「専ら」基準は、従来の下級審裁判例(キング・クリムゾン事件・東京高裁平成11年2月24日判決[公刊物未登載]、本件第一審判決など。)にも見られましたが、本件判決ではその典型的な3つの類型を示すことで、パブリシティ権侵害となる場合を明確化しようとしている点が特徴的といえるでしょう。

 

今後はいかなる事案が「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」といえるのかが問題となりますが、「専ら」の解釈については、金築裁判官の補足意見において「例えば肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合、写真の大きさ、取り扱われ方等と、記事の内容等を比較検討し、記事は添え物で独立した意義を認め難いようなものであったり、記事と関連なく写真が大きく扱われていたりする場合には、『専ら』といってよく、この文言を過度に厳密に解することは相当でない」と指摘されているのが参考となります。

 

本件判決においては、(a)本件記事の内容が、Pそのものを紹介するものではないこと、(b)記事に使用された各写真の雑誌全体における頁数の割合(200頁中の3頁の中で使用。)、色(白黒)、大きさ(縦2.8cm、横3.6cmないし縦8cm、横10cm程度)に照らして、写真が本件記事の内容を補足する目的で使用されたものにすぎないことを挙げ、結論として違法性を否定しました。

 

なお、本件判決は損害賠償を請求していた事案に対するものであるため、人のパブリシティ権侵害を理由とした差止請求の可否や基準につき、どのように考えるのかといった問題は残されたままとなっていることには注意が必要でしょう(この点、差止請求を認めたものとして、おニャン子クラブ事件・東京高裁平成3年9月26日判決[判タ772号246頁]があるが、同判決はパブリシティ権の財産的権利性を認めるものであり、人格権説をとる本件判決後においては、先例的価値が薄いと思われる。)。

 

 

◆平成24年2月20日 最高裁第一小法廷判決

 

 

交通事故の分野では、注目される判決といえます。

この判決については、新日本法規出版(株)のウェブサイトe-hoki にて、藤田弁護士がLIMMリーガルコラムを寄稿しております。

 

 

1 被害者に人身傷害保険金を支払った保険会社が、代位する損害賠償請求権の範囲について


「本件約款によれば,上記保険金は,被害者が被る損害の元本を塡補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解される。そうであれば,上記保険金を支払った訴外保険会社は,その支払時に,上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。」

 

 

※ なお、本件判決は、最高裁平成22年9月13日第一小法廷判決(民集64巻6号1626頁)が労災保険給付によって事故日に損害元本が填補されたものとするのとは異なり、人傷保険金の場合は、「その支払時に」代位するとしていることに注意が必要である。したがって、被害者は事故日から人傷保険金の支払を受ける日までの間に既に発生している遅延損害金を加害者に対して請求しうることになる。

 

 

2 被保険者である被害者に過失がある場合、人身傷害保険金を支払った保険会社は、どの範囲で損害賠償請求権を代位取得するのかについて

 

「保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」

 

最高裁HPより

 

 

※ 要するに本件判決によると、人傷保険金は、まず加害者に対する損害賠償請求訴訟における被害者(被保険者)過失割合に応じた損害額から優先的に充当され、人傷保険金が被害者の過失割合に対応する損害額を上回るときにはじめて、その上回る額について被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得できることになる。

 

 

● 絶対説(保険者優先説)
   保険金額絶対説
   人傷基準絶対説

 

● 比例配分説
   保険金額比例配分説
   人傷基準比例配分説


● 差額説(被保険者優先説)
   人傷基準差額説
   訴訟基準差額説(裁判基準差額説) ← ☆本件判決

 

 

 

 

【参考文献】

  • 三木泰子「人身傷害補償保険金の支払による保険代位をめぐる諸問題」

    (財)日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」

    いわゆる赤い本2012下巻53頁

  • 森健二「人身傷害補償保険金と自賠責保険金の代位について」

    (財)日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」

    いわゆる赤い本2011下巻39頁

  • 岡田豊基「交通事故の被害者が人身傷害補償保険の保険金受領後に加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起した場合において、保険会社が代位取得する被保険者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲(東京高判平20・3・13)」

    私法判例リマークス no39・94頁(日本評論社)

  • 山本豊「人身傷害補償保険金の支払と損害賠償請求権の減縮の有無」

    判例タイムズ1305号38頁

  • 山下典孝「人身傷害補償保険に基づく保険金の充当の問題」

    自保ジャーナル1820号1頁

  • 坂東司朗「人身傷害補償保険において請求権代位により保険者が取得する権利の範囲」

    損保研究70巻3号150頁

  • 桃崎剛「人身傷害補償保険をめぐる諸問題」

    (財)日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」

    いわゆる赤い本2007下巻131頁

  • 肥塚肇雄「人身傷害補償保険契約と過失割合」

    (財)日弁連交通事故相談センター編「交通賠償論の新次元」(判例タイムズ社)324頁